グロインペイン症候群はなぜなる?
〜アスリートが知っておきたい原因と背景〜
はじめに
サッカーや陸上競技、ラグビー、アイスホッケーといった「切り返し動作」や「キック動作」を多用するスポーツ選手の間でしばしば話題になる「グロインペイン症候群」。
鼠径部(そけいぶ)周囲の慢性的な痛みを指すこの症状は、一度発症すると長期化しやすく、競技復帰まで時間がかかる厄介なケガとして知られています。
では、なぜグロインペイン症候群は発症するのでしょうか?本記事では 解剖学的背景、動作特性、競技特性、心理的要因 などを多角的に整理し、アスリートが理解しておくべき「原因の本質」に迫ります。
1. グロインペイン症候群とは?
グロインペイン症候群(Groin Pain Syndrome)は、鼠径部から下腹部・大腿内側にかけて痛みが出る一連の症候群の総称です。特徴としては:
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走る・蹴る・方向転換で痛みが増す
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安静時には痛みが軽減することもある
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症状が長引き、再発を繰り返す
医療的には「鼠径部痛症候群」「スポーツヘルニア」と呼ばれることもありますが、厳密には筋肉・腱・関節・神経など、複数の要因が複雑に絡み合うため「一つの病名」というより 症状の集合体 として理解するのが正確です。
2. 解剖学的背景
(1) 鼠径部の構造的な脆弱性
鼠径部は「骨盤」と「股関節」の境目に位置し、さまざまな筋肉が交差する交通の要衝のような部位です。
主に関与するのは:
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腹直筋(腹部前面)
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腸腰筋(股関節の屈曲)
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内転筋群(太ももの内側でボールを蹴る筋肉)
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恥骨結合(骨盤の中央で左右をつなぐ関節)
これらの筋肉や腱が「異なる方向」に引っ張り合うため、負荷が集中しやすい構造的特徴を持っています。

(2) バランスの乱れ
特にサッカー選手は「強いキック動作」で腹筋と内転筋を同時に使います。
もし片方の筋力が弱かったり、柔軟性に偏りがあると、恥骨結合に過度のストレスがかかり炎症を起こします。
つまり「筋力と柔軟性のアンバランス」が痛みの温床となるのです。
3. 発症のメカニズム
(1) 繰り返し動作によるストレス蓄積
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サッカーのシュートやパス
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ラグビーのタックル姿勢
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陸上のダッシュやスタート
これらは鼠径部に繰り返し負荷を与えます。
小さな損傷が積み重なり、やがて慢性炎症に発展します。
(2) 急激な負荷変化
シーズン序盤の急激なトレーニング増加や、オフ明けの体づくり不足もリスク要因。身体が準備できていない状態で強度を上げると、脆弱部位に痛みが集中します。
(3) 姿勢や動作フォームの崩れ
骨盤の前傾・後傾や股関節可動域の制限があると、正しい動きができずに鼠径部へ余計なストレスが加わります。特に「片足軸でのバランス不良」は要注意。
4. 競技特性による違い
サッカー選手
最も発症率が高い競技。キック動作と方向転換が多く、内転筋と腹筋への負担が大きい。
陸上短距離選手
スタートダッシュで股関節屈曲筋に大きな負荷。特に腸腰筋の硬さが影響。
ラグビー・アメフト
コンタクト時の「ひねり」や「踏ん張り」で鼠径部に負荷。体格差のある相手との衝突もリスク因子。
氷上競技(アイスホッケー、フィギュア)
氷上での滑走は内転筋を多用するため、慢性的なオーバーユースが発症に関与。
5. 発症を助長する全身要因
(1) 骨盤の歪み・体幹の弱さ
体幹が不安定だと、股関節周囲に代償運動が生じ、鼠径部へ負担集中。
(2) 下肢アライメントの乱れ
O脚・X脚、左右脚長差などがあると、荷重バランスが崩れ痛みを誘発。
(3) 回復不足・オーバートレーニング
疲労が抜けない状態で練習を重ねると、炎症が慢性化。
(4) メンタル的要因
「休めない」「ポジションを失いたくない」という心理的プレッシャーから痛みを我慢し、結果として悪化させる例も多い。
6. 実際の発症プロセス(例:サッカー選手)
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練習量が増え、股関節周囲に軽い違和感
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休めば軽減するが、再びプレーすると再発
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徐々にボールを蹴るだけで痛み
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最終的にジョギングや日常生活にも影響
このように「違和感 → 繰り返す痛み → 慢性化」という流れをたどります。
7. まとめ:なぜなるのか?
グロインペイン症候群の本質は、
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構造的に脆弱な鼠径部 に
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アンバランスな筋力や柔軟性 が加わり
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繰り返し動作・急激な負荷 で炎症が慢性化する
という「複合的メカニズム」にあります。
アスリートにとっては「技術の問題」だけではなく、「身体の使い方・コンディショニング・回復サイクルの管理」が鍵を握るのです。
終わりに
グロインペイン症候群は「痛みを抱えながらもプレーを続けてしまう」アスリートに多発します。原因を理解することは、予防や早期対応の第一歩です。
「なぜなるのか?」を知った上で、自分の身体と向き合い、適切なトレーニングとケアを取り入れることが、長い競技人生を支える最大の武器となります。