ケガから復帰したのに、コンディションが戻らないあなたへ
― 原因は必ずある。だから、やり方を変えれば必ず変わる。―
はじめに|「努力しているのに戻らない」その悔しさごと、私たちは受け止めます
リハビリもやった。復帰許可も出た。練習にも復帰した。
それでも――
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試合になると体が重い
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走り出しが遅れる、切り返しで遅れる
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以前の“当たり負けしない自分”に戻れない
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もう再発しそうで怖く、プレーが縮こまる
戻らないのは、あなたの意志が弱いからではありません。
そこには**構造的・機能的な“原因”**が残っていることが多いのです。
本稿ではその原因をほどき、今日から実践できる「戻るための順序」を、やさしく、しかし徹底的に解説します。
1|なぜコンディションは戻らないのか? 7つの本質原因
① 骨格アライメントの微細なズレ
骨盤・仙腸関節・仙骨・胸郭・足部。わずかなズレが推進力のロスや軸の不安定を招きます。
→ 片脚立位で骨盤が落ちる/接触後に体勢を立て直せない、は典型。
② 筋の“連動性”が戻っていない
筋力そのものよりも、**使う順番(運動連鎖)**が崩れていることが多い。
臀筋が眠り、ハムが張り続け、体幹が後追い――これでは一歩目が出ません。
③ 神経伝達・固有感覚の遅れ
“頭では行ける”のに体が半拍遅れる。
リハビリ期に落ちた**反射・感覚(プロプリオ)**が未回復だと、動作の「速さ」と「正確さ」が戻りません。
④ 痛み恐怖・再発不安(キネシオフォビア)
「また壊すかも」がブレーキをかけ、出力が自動的に抑制されます。
怖さは自然な反応。段階的な成功体験でしか解けません。
⑤ 練習設計(ワークロード)の乱高下
復帰後に急激に負荷を戻すと、体は“守り”に入り質が落ちます。
**急性:慢性負荷比(ACWR)**が1.3を超える乱高下は再発の温床。
⑥ 生活リズム・睡眠・栄養のミスマッチ
睡眠不足やエネルギー不足(特に炭水化物・たんぱく)が続くと、
回復スピードも神経のキレも落ちる。メンタルの波も大きくなります。
⑦ 時間経過の“誤差”
組織治癒(腱・靭帯・筋膜)は見た目の回復より遅い。
“痛くない=元通り”ではありません。適切な段階を飛ばすと、機能は戻り切りません。
どれか一つではなく、いくつかが同時に絡んでいることがほとんど。
だからこそ、順序立てた再構築が近道です。
2|まず“見える化”する:セルフチェック & 指標
可動域
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股関節内旋/外旋・足関節背屈:左右差10%以内を目標
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胸郭回旋:深呼吸で肋骨が固まっていないか
筋出力・安定
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片脚スクワット:膝の内倒れ無・骨盤水平
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ブリッジ(臀筋優位)でハムの過緊張が出ない
バランス・感覚
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Y-Balance:左右差<4cm
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30秒片脚保持+目閉じ:ふらつきの質
俊敏・反応
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反応スタート(合図→一歩目)の主観速度
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ラテラルホップ(20秒)での左右差
主観データ
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RPE(疲労度)/痛みスケール/朝のだるさ
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睡眠時間・質、体調メモ
**“測る→直す→また測る”**を2〜3週単位で回すと、戻りが加速します。
3|再構築のロードマップ(8週間モデル)
フェーズ1|Reset(週1–2)
目的:痛みの残渣とズレを解き、土台をリセット
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施術:骨盤・仙腸関節・仙骨、胸郭、足部の整え
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ドリル:呼吸(腹圧)→臀筋アクティベーション→足部剛性
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軽運動:マーチング、ショートレンジの切替(低強度)
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指標:朝の重さ↓、可動域↑
フェーズ2|Rebuild(週3–4)
目的:連動性と基礎出力の再獲得
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筋:ヒップヒンジ、コペンハーゲン、カーフレイズ、体幹アンチローテ
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感覚:ラダー(低量・正確)、ラテラルホップ、片脚RDL
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走:10–20m加速×少本数、方向転換はリズム優先
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指標:左右差縮小、ハムの張り減
フェーズ3|Reload(週5–6)
目的:スピード×方向転換×接触耐性の再インストール
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パワー:メディシンボール投擲、箱ジャンプ、バウンディング
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COD:45°/90°切返し→シャトル→認知課題付き
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接触:ライトコンタクト導入(フォーム崩さず)
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指標:RPE7–8で“怖くない”成功体験を積む
フェーズ4|Return(週7–8)
目的:試合仕様へ。量と質を最適化
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小ゲーム:局所2対2/3対3→フルに近いゲーム
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スプリント:20–30m×少数本、再現性重視
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当日ルーティン確立(10分で完結)
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指標:痛み0–1、疲労の翌日回復○、コーチ評価↑
※ACWR(急性:慢性負荷比)は0.8–1.3を目安に段階増。
“昨日より少し良い”を積み木のように重ねます。
4|毎日の「10分ルーティン」(試合/練習前)
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呼吸×腹圧(90–90呼吸/胸郭モビリティ)
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臀筋起動(クラムシェル/モンスターウォーク)
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足部剛性(タオルギャザー/母趾球意識)
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ヒップヒンジ→股関節スプリットモビ
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反応一歩目×2本/ラテラル出だし×2本
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自分の“勝ちパターン動作”を1つ(例:短い切返し)
たった10分でも“いつも通り”が戻る。
ルーティンは自信の再現装置です。
5|メニュー例(週2〜3回/抜粋)
モビリティ:胸椎回旋、股関節内外旋、足関節背屈
アクティブ:コペンハーゲン(内転筋)、ノルディック(ハム)
ストレングス:ヒップスラスト、スプリットスクワット、RDL
パワー:ジャンプスクワット、メディボールローテ
フィールド:ラダー(正確)、COD45°/90°、反応スタート
クールダウン:呼吸・軽伸張・シャワー→睡眠準備
6|“心”を立て直す:恐怖に効く3つの工夫
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マイクロゴール:今日は「切返し10本を力まず成功」など過程目標に集中
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言語化メモ:「良かった1つ/改善1つ」を毎回15秒で書く
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セルフトーク:「怖さは正常。段階を踏めば“できる”に変わる」
怖さは排除するものではなく、馴染ませるもの。
小さな成功体験の積み重ねが、やがて“自分を信じる力”になります。
7|栄養・睡眠・回復の「最低限」
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睡眠:7–9時間。寝る前60分は光とカフェインを避ける
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たんぱく:体重×1.6–2.0g/日を目標に分割摂取
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炭水化物:練習前後にしっかり(枯渇は切替と集中を鈍らせる)
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水分:こまめに。練習後の体重差で補給量を把握
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補助:必要なら医療者と相談(鉄・ビタミンD等)。無理な自己判断は×
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オフ:軽い散歩・入浴・ストレッチ。**休む勇気は“前進”**です。
8|よくある落とし穴 Q&A(要点だけ)
Q. 痛くないから元通り?
A. いいえ。機能が戻っているかが重要。評価→施術→再評価のサイクルを。
Q. 走り込みを増やせば戻る?
A. 出力の**通り道(連動)**が先。通っていなければ量は逆効果にも。
Q. 再発が怖い
A. 段階負荷×成功体験ד測って”成長を実感することが最良の予防です。
9|“あなたを責めない”という約束
ケガは不運でも、復帰の道は意図的に設計できます。
戻らない理由はあなたの弱さではなく、順序の問題。
私たちは、骨格×筋×神経の三位一体アプローチで、あなたの“いつものプレー”を取り戻す伴走をします。
そして、もう一度プレーを楽しむ日常に戻していきます。
10|最後に|いま感じる不安は、次のステージに向かう通過点
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昨日より、今日。今日より、明日。
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1%の前進でいい。
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原因がわかれば、道は一本になる。
「戻らない」は、終わりではありません。
“戻り方を知らなかった”だけ。
あなたの努力が、また結果に変わる日まで。
私たちは何度でも、あなたと一緒にやり直せます。
付録|保存版:練習・試合“前”の10分チェックリスト
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□ 呼吸で腹圧→姿勢が落ち着く
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□ 臀筋スイッチON(モンスターウォーク20歩)
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□ 足部剛性(母趾球意識/カーフ15回)
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□ 股関節モビ(内外旋20回)
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□ 反応一歩目×2/ラテラル出だし×2
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□ 自分の“勝ちパターン”動作1つ
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□ 今日の目標を過程で1行メモ